分配金を含めた「通算損益」と「グラフ付き運用報告書」でわかりやすくなるか?改正投信法
日経新聞に気になる記事がでていました。12月1日に施行される「改正投資信託法」についての記事です。
記事によれば、いままでわかりにくかった投信の分配金まわりの事情などについて、投資家が理解しやすくなる仕組みを取り入れるように改正されるとのこと。具体的には以下の点です。
- 銀行や証券会社は、分配金を含めた投信の通算損益を定期的に顧客に通知する
- 運用報告書はわかりやすい簡易版のものができる
今回の改正投信法の施行により、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、りそな銀行などは、12月末時点の通算損益の通知を「通算損益通知書」にて翌1月に初めておこなうことを決めています。
その後は原則、年4回送られる「取引残高通知書」に記載される方向とのこと。おそらく証券会社も、取引などがあれば年4回作成される「取引残高報告書」に記載をすると思われます。
改正投信法の背景にあるもの
なぜこのような改正がおこなわれるのか。それは、投資家にとって分配金の仕組みなどがわかりにくいものだからです。
長期的な運用を志向するインデックスファンドが一定の人気を得ている欧米とちがい、日本では毎月分配型のファンドが非常に人気があります。特に退職後の定期的な収入をもとめる高齢者の人気が高いとされています。
しかしそういったファンドのなかには、運用益からではなく、元本を取り崩して分配金を支払っているものもあります。毎月分配型ファンドに好んで投資する高齢者のなかには、この仕組みをきちんと理解していない人が多いようなのです。
実際、個人が受け取る分配金は元本からの取り崩しも多い。投資家は売却する際に元本の目減りに気づき、金融機関とトラブルになる例があった。
出典 : 金融庁、貯蓄から投資後押し (日経新聞)
投資信託協会のアンケート調査ではこの仕組みを知っている人は3割にとどまり、「分配金=運用益」と誤解している人が多い。
投資信託協会のアンケートが、どのような人たちを対象におこなわれたのかはわかりません。
先入観によるものかもしれませんが、個人的にはネット証券でおもに取引している層には理解度が高い人が多く、対面証券で取引している層には誤解している人が多いと推測します。
もちろん野村證券や大和証券などの顧客数は、ネット証券とはくらべものにならないので、アンケートのとおり、実際にかなり多くの投資家が分配金の仕組みについてきちんと理解していない可能性が考えられます。
分配金についての問合せは実際に多い
ぼくは対面証券で派遣社員として働いていますが、実際に投信分配金についての問合せで多いのが、上記の「特別分配金」の問題です。
特別分配金は「元本払戻金」と併記されることが増えていますが、その名のとおり、運用益ではなく元本を取り崩して支払われる分配金のことです。
特別分配金とは
ファンドには分配金にあてられる原資として「分配対象額」が定められていますが、それは運用益にかぎりません。つまり、期間中の運用益を超える分配をおこなうことも可能です。
投資家の購入した価格を「個別元本」といいます。分配金を出したあとの投信の基準価額(分配落ち後の基準価額)が個別元本を下まわったとき、それを「特別分配金」と呼び、その部分に対しては非課税になります。
分配落ち後の基準価額が個別元本を上まわっている場合は、その部分は「普通分配金」です。
個別元本は投資家が購入した価格であり、基準価額がそれを上まわっていれば運用益が出ているということになります。そこから分配されるのが通常の分配金のイメージだと思います。
しかし、購入価格を下まわる基準価額になるように分配された場合、それは運用益を超えた分配金がだされたことになります。つまり、投資した元本の一部が戻ってきたことと同じです。それが特別分配金です。
毎月分配型ファンドの落とし穴
毎月分配型のファンドのなかには、投資家がもとめる水準の分配を毎月おこなうために、運用益を超えて分配することが常態化してしまっているものも見受けられます。
その結果、上記の記事で紹介されているような投資家と証券会社とのトラブルが起こるのだと思います。
投信の分配金をたくさんもらっていて運用が順調だと思っていたら、実は投資した元本のほうがマイナスになっている…ということが現実に起こっているのです。
分配金額ばかりに注目していると、思わぬ資産の目減りに驚くことになる可能性があります。そのような誤解による偏った状況を是正するために、12月に改正投信法が施行されるというわけです。
楽天証券は先行して8月の時点で、サイト上で通算損益を確認できるようにしたとのことです。需要がとても強かったためとのことですが、実際にぼくの勤め先でも通算損益についての問合せは多く、需要の強さは以前から感じていました。
こうした投資家側の目線に沿った改正は、素直に良いものだなと思います。
運用報告書がグラフ付きになる
投信には決算があり、原則そのたびに「運用報告書」を作成して受益者(投資家)に交付する必要があります。毎月分配型ファンドには毎月決算がありますが、6ヶ月に1度のペースで作成・交付することが法令によって定められています。
運用報告書では、自分が買ったファンドがどんな商品を組み入れてどのように運用されているのか、運用成績はどうなのかということなどが確認できます。
しかし、これが非常にわかりにくい。目論見書とならんで「わかりにくい投信関連書面の代表」という感じです。それが今回の改正投信法により、わかりやすいように変わるようです。
12月以降に登場する簡易版の運用報告書では、日本株や先進国債券など代表的な資産と投信の騰落率をグラフ付きで掲載することが義務になる。
騰落率をグラフ付きで掲載するというのはわかりやすい表現ではありますが、その前の「日本株や先進国債券など代表的な資産」という文言がすこし気になります。
おそらくそのファンドのベンチマークである指数などを併記するということだと思うのですが、実際のものを見ないと本当にわかりやすいのかどうかの判断はできません。
改正投信法で金融庁の狙いは達成できるか
今回の改正では「通算損益の通知」や「運用報告書の改善」などをとおして、投資家のファンド選びの助けになることを目的としているとのことです。
日本の投資家のファンド選びの基準が変わっていくのか。毎月分配型ファンドへの人気の偏りがなくなり、低コストのインデックスファンドや運用成績の良いファンドの人気が高まるのか。
はたして金融庁の「貯蓄から投資へ」という狙いどおりにいくのかどうか。急な変革はむずかしいと思われますが、投資家として市場に参加しながら、長い目で見守っていきたいと思います。
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